かっこ悪い経営者
神奈川県に所在する、
ある会社の元社長が弊社にご来社されました。
3年前に第一線を退かれて、
現在は相談役となられています。
勇退時に高額な退職金が会社から支給されたと聞き、
さぞ悠々自適な生活を送られていると想像していましたが、
元社長曰く、
退職金はそのまま銀行に預金しているとおっしゃるのです。
私は「何故、投資・運用をせずそのまま預金しているのですか?」
と尋ねたら、「まずは、減らないこと。
それから、いつでも使えるようにしている。」
ただそれだけだそうです。
「今まで自分の身の丈にあった範囲で会社をやってきたが、
うまくいかないことがほとんどで、
うまくいったことは片手に余るほどだった。
仕事で常に困難な問題に直面して、
日々その解決に忙しいあまりいつも家族をも犠牲にしてきた。
女房の親の土地まで担保に取られたこともある。
ずっと切り詰めて生活をしてきたので、
働かずにただ預金残高が減っていくような生活はできない。
不器用だが仕方がない。
私のような古いタイプの人間は、
多分、死ぬ寸前に預金残高が最高額になるような気がする...。」
そして、元社長はこうも仰います。
「退職金は、自分が使うためではない。
今は息子に会社をバトンタッチしたが、
今後何があるかわからないので、
いつでも使えるようにしておきたい。
贅沢も出来ない性分なので、
夫婦二人の生活なら年金の範囲で充分。
それより創業当時から趣味でやってきたことに磨きをかけて
これからの仕事にしていきたい。
生涯現役で働けるほうが幸せだと思っている。」と...。
後日、元社長の奥様からお手紙をいただきました。
そこには、「まだまだ未熟な子供たちですが、何卒ご指導願います。」
と書かれていました。
家族を犠牲にしてきたと元社長は仰いましたが、
私はそうは思っていません。
立派に後継者として活躍されている子どもたちを見れば判ります。
このご夫妻は仕事を通じて子供を育ててきたと思うのです。
余談ですが、最近テレビで
年商○○億円のセレブ社長の私生活公開や
豪邸訪問などの番組が多く放送されています。
でも、私はこの手の番組に登場する経営者は嫌いです。
そのような番組で、
視聴率が上がるというのにも甚だ疑問を感じますし、
番組を観た社員がどんな気持ちになるか...。
登場するセレブ社長の無神経さに驚いてしまいます。
面白くないので番組にならない、
と制作会社に言われそうですが、
中小企業の経営者の実態はもっとかっこ悪く、
贅沢などしていません。
一方、元社長のような方が多いことを、
この仕事を通じて実感してきました。
多くの経営者は問題が山積でも決して顔に出さず、
ひたすら頑張っていらっしゃいます。
今こそ、そのような経営者から学ぶ事の方が
大切ではないのかと思えてなりません。